桜が散りはじめた頃

桜が散りはじめたこの季節になるといつも思い出すことがある。

大学を卒業し、大阪の印刷会社に入社して間もない頃、最初の三ヶ月は研修期間として印刷の現場に配属となった。
研修が終わって更衣室で着替えていると少し離れたところで着替えていた先輩の栗山さんが声を掛けてきた。

「おぅ!福井よ。お前はどこのファンなんや?」

「?????」

「野球に決まってるやろ。どこのファンなんや?」

「栗山さん、僕は野球は嫌いなんです。全く興味もないし、やったこともないです。」

そう言った途端に先輩の栗山さんは無言になった。

その印刷会社に勤めていたのは35歳になるまでの11年ほどだったが、栗山さんはいつも仲良くしてくれた。

そこを辞めて別の会社に移ってからも時々会っていた。
何時だったろうか、あの頃のことが話題になった。

「栗山さん、僕が入社した頃に更衣室で野球はどこのファンなんか聞いたことあったでしょ。なんでやったん?」

「そら、新入社員は緊張しているやろうから、新しく入ってきた奴には野球の話をしたらみんな笑顔で話しをしてそれで仲良くなったんや。オマエだけやでぇ、『野球は嫌いや、全く興味が無い』とすました顔で言った奴は。あんなことを言ったヤツは誰もおらんかったんでびっくりしたわ。」

あれから25年以上経った今でもあの頃の出会いのことを思い出してふたりで笑った。